事業計画
「どんな宿泊施設にしたいのか(コンセプト)」が固まったら、事業計画書を作成します。事務的な作業や手続きは、開業予定日よりもはるか前に進めることが重要です。事業計画は具体的なコンセプトを決定する工程のひとつです。
その後は、開業手続きや届出の提出などに移りますが、事業計画書の作成はじっくりと進めてください。 事業計画書は、金融機関からの融資を受けるために提出する重要な書類となりますが、自己資金だけで開業する場合でも事業計画は必ず作成するようにしてください。
事業計画は宿泊施設のコンセプトや商圏の市場調査や開業にかかる費用、開業時の資金調達、開業後の売上見込みの算出、資金が不足しそうな時に削る箇所などを練りこんでいきます。
計画書の内容はコンセプトと、宿の立地を考えあわせることで具体的に決まります。商圏調査などのマーケティングによって浮かび上がる客層と、宿のイメージが合致するかどうかが解ってきます。損益分岐を把握しているか、資金が不足しそうな時には何処を削るのか、あるいは借り入れを増やすのか。あらゆる条件を視野に入れ作り込んでいくことが大切です。 事業計画は、長期的な見通しを立て、少なくとも開業から3ヶ月後、半年後、1年後の計画は立てておくべきです。
運営資金を融資してもらう際にも開業計画は重要な役割を担いますので、第三者が見ても理解できるように作成してください。
開業スケジュール
前準備 | 物件申し込みから引き渡し 約1〜2か月 | 内装・外装工事期間 約2、3週間〜2か月 | 工事引き渡し後 約1週間 | オープン後 | |
事業計画 | 事業計画 |
作成の目的
1.事業内容を明確化するため
事業計画書を作る目的の1つは、自分自身のためです。
コンセプトに基づき一貫した事業内容になっているか、頭の中を整理するためにも一役買います。また、計画通りに進んでいるかを確認するためにも事業計画書の作成は必須と言えます。
2.資金調達のため
親族や友人に協力を仰いだり、金融機関から融資を受けたり、補助金や助成金を申請する際には必要不可欠です。
事業の将来性や魅力を最大限に伝えることももちろんですが、第一に返済能力に問題がないことを示すための信頼性・実現性の高い事業計画書の作成が求められます。
市場調査
参入業界の調査・分析
参入しようとしている業界の動向を調べておくことはとても重要です。
厚生労働省の資料によると、2020年の旅館・ホテル・簡易宿所・下宿営業の施設数は、89,159軒です。
旅館、下宿は減っていますが、ホテル、簡易宿泊所は増え続けています。
2016年に許可基準の規制緩和が実施されたこともあり簡易宿泊所は増え続け、2019年の施設数は2006年から1.5倍以上に増えています。
営業許可件数は、2006年の3,398件から2019年には7,574件と倍近く増えています。一方、営業廃止件数は、4,000軒前後と大きく変化はありません。
コロナ禍で国内外の旅行や出張が大幅に減少し、ホテル業界は減収・減益に追い込まれています。
しかしながら、コロナ禍前はインバウンド需要が拡大を続けていました。コロナが終息すれば、インバウンド需要も回復していくと考えられます。
国内の宿泊業の市場規模と推移、成長性、開業予定エリアの客室稼働率・宿泊単価の動向、宿泊施設の利用目的(観光・ビジネスなど)の動向、インバウンドの動向などの市場動向を調べて分析します。
参考:厚生労働省 衛生行政報告例
参考:e-Stat(政府統計の総合窓口)
参考:観光庁 宿泊旅行統計調査
商圏分析
宿泊業は、観光業との関係性が強い業界です。
宿泊施設を開業する際には、開業予定地周辺の観光地、交通アクセスが成功の鍵となります。
商圏調査の方法
1. 商圏調査
開業予定地周辺の観光施設・レジャー施設・ビジネス・公共施設など需要を見越し、競合施設の調査もしましょう。
コロナ禍で海外からはもちろん、都道府県外からの観光客の需要も見込めないなか、どう集客するかが最重要になります。
また、コロナ終息後の展望も見据えておかなければなりません。
2. 周辺観光地・観光施設
観光客がメインターゲットの場合、観光地の集客力が大きく影響します。
開業予定地の観光資源、観光客の性別・年代・どこから来訪するかなどを調査し分析します。
周辺の観光施設の入込客数や推移、公共交通機関の乗降客数、空港や港湾の出入国者数、周辺の繁華性等を調べましょう。
統計データからは、商圏の規模と質(ホテル・旅館・簡易宿泊所数、宿泊者数、宿泊者の居住地、外国人宿泊者数と国籍など)を見極めることができます。
商圏の特性を把握しておくことは、コンセプトに沿った開業には必要不可欠です。
3. アクセス
観光地までのアクセス、主要都市や主要駅からの利便性も重要となります。
開業予定地周辺の主要駅までの交通手段と利便性、公共交通機関の乗降客数、空港や港湾の出入国者数、観光客の動線等を調べましょう。
4. 競合調査
商圏内に「どのような宿があるか」「顧客層」「価格帯」「サービス内容」「ピークとオフピークの時期」「ホームページ」「集客・RP方法」など競合店を調査します。ご自身の宿のコンセプトと重なる宿は重点的に調査分析します。例えば、低価格をウリにするなら、競合宿の価格情報収集は必須です。
特に人気宿では、「宿の雰囲気」「接客やサービス」「業務効率」「営業力」などをチェックするようにしてください。
競合は簡易宿泊所だけとは限りません。簡易宿泊所だけでなく、人気ホテル・旅館や気になる宿泊施設は何度でも訪問し、魅力になっている点をしっかり分析することが大切です。
このような競合調査では、商圏内の消費者がどのような基準で宿を選ぶのかが参考になり、宿の強みにできるような差別化戦略を立てる際にも役立ちます。
ただし、競合調査を行う際には営業妨害と思われないように注意してください。
商圏データ入手先
統計データは、統計局のHPや、商圏データを扱う会社から調べることができます。
日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト e-Stat は、ぜひ活用してください。
分析に必要なデータやトレンド情報は、観光庁、各自治体、日本政府観光局、業界団体等の公開資料から入手したり、専門誌や業界関連のイベントからも収集することができます。
また、商圏調査サービスを行っている会社に依頼すれば有料データを手に入れることができます。
この「調査結果」は融資申請書に添付する資料として、とても重要になってきます。
宿泊業界自体の市場動向や商圏分析を行うことにより、予想されるリスクと対策を立てておくもできますので、しっかりと備えてください。
運営方法から選ぶ
民泊は、以下の3つの法のいずれかに基づいて運営する必要があります。
(1)住宅宿泊事業法(民泊新法)
(2)旅館業法
(3)国家戦略特区法
許認可の難易度は、住宅民泊事業法<国家戦略特区法(特区民泊)<簡易宿所(旅館業法)の順に高くなります。
それぞれ運営方法や制限が違いますので事前に確認しておきましょう。
(1)住宅宿泊事業法(民泊新法)
住宅宿泊事業法(民泊新法)は、急速に増加する民泊の安全面・衛生面の確保、観光旅客の宿泊ニーズが多様化への対応のために、2018年6月に新たに制定された法律です。
「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3つの営業者が位置付けられており、それぞれに対して役割や義務等が決められています。
民泊事業者は「住宅宿泊事業者」に該当します。
家主居住型民泊と家主不在型民泊があります。
- 最低床面積は、1人当たり3.3㎡必要です。
- 年間提供日数が180日を超えてはいけないという営業日数制限があります。
- 「台所」「浴室」「便所」「洗面設備」がある住宅であれば、都道府県への届出のみで始めることができます。
(2)旅館業法
旅館業法に基づく許可には、「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」という区分があります。
●簡易宿所営業
旅館・ホテル営業はフロント設備の設置義務があるため、民宿・ゲストハウス・ユースホテル・ペンションなどの宿泊施設では、「簡易宿所営業」の許可を取得する施設が多いです。
- 年間の営業日数に制限はありません。
- 自治体の許可が必要で、営業できる地域は限られています。
(住居専用地域での営業はできません。) - 最低床面積は、1人当たり3.3㎡必要です。
- 都道府県への許可申請が必要です。
(3)国家戦略特区法
旅館業法の特例で「特区民泊」と呼ばれています。
国で特別に指定されている区域において、特別認定を受けて民泊を行うことができます。
「旅館業法」に比べて「特区民泊」の方が易しい条件で認定を受けることが可能です。
ただし「特区民泊」が可能なのは、国家戦略特区の中で特区民泊の条例を制定している自治体の区域に限られます。
特区民泊が可能な区域は、東京都大田区・大阪府大阪市などがあります。詳しくは各市町村へご確認ください。
- 年間の営業日数に制限はありません。
- 一居室の床面積は25㎡以上必要です。
- 最低宿泊日数が2泊3日以上という宿泊日数制限があります。
- 都道府県への認定申請が必要です。
簡易宿泊施設のタイプから選ぶ
近年増えている民宿、ゲストハウス、民泊の違いと特徴をご紹介します。
民泊
住宅宿泊事業法(民泊新法)のもとで営業する宿泊施設です。
空き家やアパート・マンションの空き部屋などの賃貸物件で営業ができます。
手続きが大幅に簡素化され、他の宿泊業と比べて始めやすいのが特徴です。
【特徴】
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)のもとで営業するケースが多い
- 空き家やアパート・マンションの空き部屋などの賃貸物件で営業ができる
- 民泊事業を開始する前に都道府県知事等への届出が必要
- 他の宿泊業と比べて始めやすい
- 家主居住型民泊と家主不在型民泊がある
- 営業日数は年間180日まで、という規制がある
ゲストハウス
旅館業法の簡易宿所営業の許可を得て営業する宿泊施設が多いです。
ゲストハウスは近年増えています。
宿泊料金が安く、他の宿泊客とのコミュニケーションの取りやすさが魅力のようです。
宿泊料金が安いことで、長期滞在の利用者が多いという傾向があります。
海外からの旅行客や若年層からの人気が高く、利用者数も増えています。
お洒落なカフェ風や、古民家をリノベーションした古民家風など、クオリティの高いゲストハウスが登場しています。
アメニティにこだわったり、フロントデスクを用意したり、イベントを開催したりと、サービス面でも多様化しています。
【特徴】
- 旅館業法の簡易宿所営業の許可で営業するケースが多い
- 住居専用地域で営業ができない
- 営業可能日数に上限がない
- 客室は、ドミトリーと呼ばれる相部屋で素泊まりであることが基本
(中には、朝食を提供しているゲストハウスもある) - キッチン・リビング・お風呂・トイレなどは共用で、最低限のサービスだけを提供するのが一般的
民宿
旅館業法の簡易宿所営業の許可を得て営業する宿泊施設が多いです。
民宿とゲストハウスの違いはほとんどありません。
民宿は家族経営のケースも多く、郷土料理や家庭料理などをふるまうところもあります。1泊2食付やアメニティを用意するなど、旅館のようなサービスを売りとした民宿もあります。
また、農山漁村で農林漁業体験ができる民宿も増えています。
【特徴】
- 旅館業法の簡易宿所営業の許可を得て営業するケースが多い
- 住居専用地域で営業ができない
- 営業可能日数に上限がない
●農林漁業体験民宿
農家民宿は、旅館業法に基づく簡易宿所のうち農山漁村余暇法に該当し、都市の住民に対して農林漁業に関する作業体験等を提供できる施設です。
農山漁村余暇法に定める登録基準を満たせば、だれでも農林漁業体験民宿業者の登録実施機関の登録を受けることがでます。
宿に関する計画
宿の場所、建物
宿は場所によって、毎月かかるコストや集客数が異なります。
宣伝効果も意識しながら、コストパフォーマンスを重視する必要があります。
上手く集客できず廃業する宿泊施設も多いので、特に店舗の立地は慎重に選ぶべきでしょう。
簡単な売上計画を立ててから、毎月の採算シミュレーションをした上で、適正な家賃を見極めることが大切です。
詳しくは「物件探し」ページをご覧ください。
内装、外装
コンセプトを意識して、店舗に必要な内装・外装を決定します。
詳しくは「内外装工事」ページをご覧ください。
屋号(宿名)
宿泊施設の屋号は、付け方次第で宣伝効果やイメージが変わってきます。
コンセプトを意識して、魅力が十分に伝わる店名にすることが重要です。
商標調査と商標登録
商標とは、事業者が、自身の店舗の取り扱う商品・サービスを他店のものと区別するために使用するトレードマークのことです。 商標は特許庁に出願し、登録を認められ、手続きを完了することで商標権を主張できます。
商標権は、使用を開始した順番ではなく、先に出願されたものが優先して登録されます。
商標調査や商標登録はご自身でもできますが、特許事務所などの専門家に依頼することもできます。
リスクをさけるためにも、商標調査と商標登録は行ってください。 調査や登録には期間を要することがありますので、余裕をもって行動してください。
商標調査
付けたい施設名やロゴが、商標登録されていないかを事前に確認してください。 商標調査をせずにオープンし、すでに商標権を持っている他施設とかぶってしまうと、施設名や看板、オリジナルアメニティグッズ、ショップカード、ホームページなどを、全て変更し差し替えなければなりません。
警告を無視したり、不遜な態度をとり続けたりした場合、訴えられ損害賠償請求をされてしまうケースもあります。
また、インターネットを使用することも多い現代では、他施設と名前がかぶったり、同じような名前がいくつも出てきてしまうと販売機会のロスとなってしまう可能性もあります。
商標登録
多くのお客様に利用してもらえること、長期間に渡って使用することを見越すことが大事です。 お店の成長と共に多くのお客様に利用していただき、宿の成長と共に多くのお客様に利用していただき、メディアで取り上げられるようになったとき、宿名が商標登録されていると万が一のトラブル防止に繋がります。
商標は特許庁に出願し、登録を認められ、手続きを完了することで商標権を主張できます。 お金はかかりますが、登録することをおすすめします。
宿名ネーミングの方法
宿名は宿のシンボル的存在
与えるインパクトや、コンセプトを考えて決めなければなりません。
宿名の由来をお客様に尋ねられることもあるかもしれません。宿名を決める際のストーリーも宿の魅力となります。長い付き合いとなると考え、ご自身の宿にピッタリだと思う宿名を熟考してください。
宿の名前を決めるうえで、気をつけたいポイントをご紹介します。
おススメのネーミング方法
1.2~7文字に収める
「屋号が覚えやすい」という点は最も大切な要素になるでしょう。長い宿名は人の記憶に残りにくいものです。
覚えてもらいやすいのは2文字~7文字以内の店名です。それ以上長いと言葉に出しにくい上、インターネットで検索するときの入力の手間もかかります。
宿を予約しよう思ったとき、すぐ名前が出てくるような屋号がよいでしょう。
2.ショルダーネームを付ける
ショルダーネームとは、店舗の2つめの名称のことです。
「ホテル」「旅館」「ゲストハウス」「ペンション」「ユースホテル」「民宿」など宿のタイプを表す肩書のようなものや、「○○(地名)の宿」「温泉の宿」「料理の宿」などサブタイトル的なものがあります。
ショルダーネームをつける最大のメリットは、どんな宿かすぐに分かってもらえることです。
ショルダーネームがあるだけで、「○○したい」と思っているお客様への訴求効果があります。
また、「愛犬と泊まれる宿」「海の見える地魚料理の宿」「子どもと泊まれるペンション」「オーガニック料理と自然ペンション」などコンセプトとなっているメニューやサービスを付けると、より訴求効果が高くなります。
3.ターゲット層を意識した店名
「ホテル」「HOTEL」「旅館」と表記するのとでは、サービスが同じだったとしても、与えるイメージは変わってきます。
女性や若い方向けの宿なら、ひらがなやカタカナを使ったり、清音や半濁音を使うと優しくやわらかなイメージを与えることができます。
漢字を多用した宿名なら男性や年配の方に、若い年代層向けには横文字に、逆に年配の方向けなら横文字は避けるなど、ターゲットとしたお客様層をイメージしながら考えましょう。
4.ゆかりのある人の名前を使う
「よっちゃん」や「けんちゃん」など、オーナーや開業を目指すきっかけとなった人物や、恩人など、宿にゆかりのある人の名前を使っても良いでしょう。
愛称をつかうことでと覚えやすく、親しみを持ってもらえます。
5.宿からイメージしたキーワードから独自の宿名を創り出す
宿の「コンセプト」「提供するメニューやサービス」「立地の特徴」「開業までのエピソード」「信念」などからイメージできる単語を書き出します。それを組み合わせたり外国語にしてみたりと工夫をして、独自の宿名を創り出します。
ポイントは、「言いやすい」「聞き取りやすい」「印象に残る」「おいしさを連想できる」ことです。
6.発音しやすい
簡易宿泊所は海外からのお客様も多いため、発音しやす名称がよいでしょう。
多くの外国人の方にとって「っ(促音)」、「ー(長音)」,「ん(撥音)」などの発音は難しいようです。
注意する点
1.読めない、覚えられない
長すぎる名前や、漢字のみで表記する中国語の名前、馴染みのない外国語などは、読めなかったり、覚えられなかったりするため認知度を上げるのが難しくなります。
2.誤解を与える
どんな宿かが屋号からイメージできないと、印象を残すことは難しいです。「何の宿か分からない屋号」だけでなく、「字面で誤解させてしまうような屋号」も避けた方がよいでしょう。
3.他店と似ている、かぶっている
屋号を決めたら、商圏内にある既存施設が似たような屋号を使っていないか、確認しましょう。
インターネットを使用することも多い現代では、他施設と名前がかぶったり、同じような名前がいくつも出てきてしまうと販売機会のロスとなってしまう可能性もあります。
また、他の施設が商標登録をしていた場合、同じ屋号を使うと罰せられる可能性もあります。
トラブルにならないためにも、事前の確認は必ずしてください。
ロゴを考える
宿のオリジナルロゴやマークを作りましょう。看板・ショップカード・備品・アメニティグッズ・ホームページなどにロゴがあると、お客さんの記憶に残りやすくなります。
宿のロゴを施設内にちりばめることにより、全体の統一感と、広告効果もあります。
資金計画
簡易宿泊施設開業にかかる費用
簡易宿泊施設を開業するためには、物件費用、内装工事費用、機器、什器(場合によっては厨房機器・テーブル・椅子)、その他備品など、運転資金、販促費などの費用が必要です。
開業にかかる開業資金は、条件によってまったく変わってきます。空き家を改装したケースでも約500万円~1,500円は必要とでしょう。
以前宿だった物件をそのまま使う居抜き物件を探す、家賃を抑える、機器を中古品にしたりリースにするなどの抑える方法をとり、費用を抑えることは可能です。
ご自身のやりたい宿や資金的な制限などを考慮して、物件探しや事業計画作成を行っていってください。
簡易宿泊施設開業にかかる費用
開業資金
簡易宿泊所の開業資金は500~1,500万円は必要です。
定員数の大きな宿泊施設や物件を購入する場合は、物件取得費だけで1,000万円以上かかることもあります。
物件取得費
物件取得費
- 初月分の賃料
- 初月分の管理費
- 敷金/保証金 : 家賃3~10ヶ月分
- 礼金 : 家賃0~2か月分
- 仲介手数料 : 家賃1か月
- その他 : 造作譲渡代(居抜きの場合)、家賃保証委託料(その他)
※その他 は場合によります。
運転資金
運転資金は、事業を維持していくために必要なお金のことです。家賃、人件費、仕入費、水道光熱費、広告費などに加え、納付する税金も運転資金になります。
お客様が定着し軌道に乗り始めるまでは、一般的に半年以上かかると言われています。
そのため運転資金は余裕をもって、6ヶ月分(最低でも3ヶ月分)は用意しておくようにしてください。
人件費
人件費は店主の給料(生活費)を除いた金額です。一般には30%未満に抑えるとよいとされています。
人件費率は以下の式で求めます。
人件費率 = 人件費 ÷ 売上
正社員・アルバイトを3人雇ったとしたら、月にかかる人件費だけで50万円~100万円はかかります。
水道光熱費
水道光熱費は、地域差や宿泊人数の占める割合によります。
ご自身の修行されている宿泊施設の料金を参考に見積もってみてください。
借入金返済
日本政策金融公庫やその他金融機関などへの借入金の返済費が毎月かかります。
コスト削減のポイント
居抜き物件
以前同業態だった物件で、残された機器・備品をそのまま使用することができればかなりのコストカットとなります。
中古品を利用
ホールから見えない事務所や厨房の機器・備品を中古品で揃えると費用を抑えることができます。
リース
機器をリース契約にすると、初期費用は抑えることができます。ただし、所有権はリース会社にあり、契約期間満了後も所有権は移りませんのでご注意ください。
広告・宣伝費用は外注コストの削減
広告・宣伝にあたっては、広告の作成費用や送付・掲載費用等が発生します。SNSを活用したり、自ら広告案を練ったり、チラシの配布を自ら行ったりすることで、外注コストを削減することもできます。
資金計画
資金計画は、開業するときに必要な資金に対して計画することです。
1.投資計画を立てる
まずは宿泊施設を開業するために、物件費用、内装工事費用、機器やテーブル・椅子などの備品、運転資金、販促費、仕入れ、人件費など最低どのくらい必要かを計算します。
必要資金を計算する際には、設備資金・運転資金の2つに分けて計算すると良いでしょう。
設備資金
主に開業を迎えるまでにかかる費用のこと。
不動産の購入代金や設備代、内装費用など。
運転資金
事業を続けるために必要な資金のこと。
仕入費や人件費、テナント料金など。
途中で資金不足にならないよう、余裕のある見積もりをしておくと良いでしょう。
自己資金だけでは不足する場合には、公的融資などを活用して開業資金を調達しましょう。
2.利益計画を立てる
実際に営業を開始する前には、利益計画を立てておく必要があります。
利益計画とは、毎月の儲けがいくらになるか計画を立てておくことです。
出店する土地や条件によって、1日にどれくらい売れば黒字になるかという部分は変わります。
あらかじめ利益計画を立てることで、本当に実現性がある事業かどうかをチェックすることができ、宿泊施設を運営していくために最低限必要な売上高や必要経費の概算を把握することができます。
3.資金調達計画
開業の資金繰りをどうするか、具体的に決めていきます。投資計画で出した宿泊施設の開業に必要な予算から、自己資金を差し引き、足りない分をどう調達するのか計画します。
調達方法を調査・選定し、どこからいくら借りるのかを明確にします。
金融機関からの借入を検討する場合は、起業に必要な資金総額の3~5割程度の自己資金を確保するようにしましょう。自己資金がしっかりと準備されているということは、事業計画が練られているのと同じように本気度が高い印象につながります。起業するために資金をコツコツと貯めてきた人は、借入を依頼する金融機関からも良い評価を得られるはずです。
親族からの借入を検討する場合は、対外的には自己資金と同等に見られることもありますが、厳密に考えれば将来返済が必要になる借入です。親族とはいえむやみに借りるのではなく、自己資金を確保したうえで必要額を借入することが大切です。
4.返済計画
返済計画では借り入れたお金の返済方法、返済期間、返済金額などを明確にします。
借り入れ計画で重要なことは、総投資額に対してどのくらいの借入金を予定するかです。 まず、必要資金額と自己資金を明確にし、借り入れ金額を決定し、資産としての返済計画を綿密に検討する必要があります。
5年程度の中期事業計画も立てておきましょう。
収支計画
売上計画
売上計画
店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てます。平日、週末、週明け、連休、長期休暇、シーズンなどで来客予想数を変えるなど、細かく作りこみましょう。
売り上げ計画は、『月次』『年間』でだすようにします。宿泊業は、繁忙期と閑散期の差が大きいため、シーズン料金やシーズン稼働率も加味します。
毎月、運転資金を捻出していくためには、どのように販売するのかが重要になってきます。宿の魅力をお客様に知ってもらうことはもちろん、周辺の観光施設や物販店と協力することで集客率をあげましょう。
また、料理、ドリンク、お土産などの物販などを購入してもらうことで客単価を上げましょう。
何度もシミュレーションし、借入金返済や投資回収がしっかりとできる売上計画を立てましょう。
売上
売上は、簡単に考えると『客数×客単価』です。
詳しい考え方をすると以下のようになります。
売上 = 定員数(ベッド数)× 稼働率 × 客単価
稼働率には、客席稼働率と定員稼働率があります。計算式は以下のようになります。
客室稼働率=販売客室数÷販売可能客室数
定員稼働率=宿泊者数÷定員数
定員数の少ない簡易宿泊所の場合客室稼働率ではブレが生じやすいため、定員稼働率の方が活用しやすいでしょう。
客単価、稼働率、(食事を出す場合は喫食率も)を設定し月毎に算出します。わからない場合は、業界平均や地域の相場を参考にします。
客単価
客単価とは、1客あたりの平均売上のことです。
料理、ドリンク、お土産などの物販なども反映されます。
希望エリアにある他の宿泊施設の相場を調べ、設定しましょう。
一番大きな割合を占めるのが宿泊料金であり、コンセプトに直結します。
客単価は宿のコンセプトから外れてしまわないようにすることが大切です。
席数
カウンター席は、100%、テーブル席(4人掛け)は、60%として計算します。4人掛けの場合は、2.4人となります。
宿泊客数
宿泊客数は、宿泊利用した人数のことです。
集客数を増やすには、以下の方法があります。
1. 利用客数を増やす
宿泊客数を増やす1つの方法は、新規の顧客を増やすこと、リピーターを増やすことです。
新規の顧客を増やすには、広告宣伝を増やす、SNSでの発信方法を増やしたり発信回数を増やすなどの方法があります。
リピータを増やすには、顧客満足度を上げることです。
顧客満足度を上げることは、リピーターを増やすだけではなく、利用者の口コミで新規顧客の獲得にも繋がります。使い勝手・居心地の良さはもちろんですが、その他にも独自のイベントを開催したり、こだわりのアメニティや空間を用意するなど工夫できることは多々あります。
2. 一人当たりの宿泊日数(連泊)を増やす
宿泊客数を増やすもう1つの方法は、一人当たりの宿泊数を増やすことです。
一人当たりの宿泊数が増えると、施設内で使用する消費額が増えやすいため客単価が高くなります。また、清掃にかける時間を削減することもできます。
そのため、一人当たりの宿泊数を長くできることは、利益率を上げる大きなポイントとなります。
営業日数
営業日数を考える場合、厳密には、曜日別売上変動指数を考慮する必要があります。
たとえば、ターゲットがファミリー層であれば連休や長期休暇は変動率を高くし、閑散期は変動率を低くして調整します。
2018年6月に成立した新法民泊では、運営できるのは年間に180日までという規定があります。安定的な収益が見込めるわけでもないため、効率よく運営するためのスケジュール管理や計画が大事になってきます。
※旅行業法(簡易宿所)、特区民泊を取得した場合は営業日数制限はありません。いずれにしても、繁忙期と閑散期の差は大きいため、年間通した計画・スケジュール管理は必要でしょう。
利益率を上げるには
売上から費用を引いたものが利益となります。
利益を上げるには売上を押し上げつつ、費用をおさえることです。
1. 売上をUPする
売上を上げるには、客数を増やす(定員を増やす、稼働率を上げる)、客単価を上げることです。
ただし、安易に定員を増やしたり宿泊料金を上げると、顧客満足度の低下となり顧客離れの原因になりますので注意が必要です。
稼働率を上げるには、新たな集客の方法を考えることになります。
広告料金とのバランスをとりつつ、宿の魅力を最大限に利用者に届けられる方法・手段を考えましょう。
2. 費用を抑える
費用を抑えるには、初期費用を抑えることと、運転資金を抑えることです。
初期費用を抑えるためには、物件取得費(賃料)を抑えるために開業地の見直しをしたり、設備費を中古やリースなどを利用したり、内外装や業者の見直しで内外装費を抑える工夫が必要です。
運転資金を抑えるには、光熱費、人件費、広告宣伝費、消耗品費、仕入原価などを低減するための取り組みが必要となります。
シミュレーションする
毎月の採算シミュレーションは、以下のポイントを意識し、何度も練り直すようにしましょう。
- 客単価や想定客数など、売上につながる部分を過剰評価していないか?
- 毎月の運転資金が、計画より上回る可能性はないか?
- 計画がズレた場合の資金調達手段などの対策は練られているか?
宿の立地条件によって、平日と休日では客層が異なるため、その差も考える必要があります。
また、宿泊業は繁忙期と閑散期の差が大きいため、年間を通した計画が必要です。
開業初月から1ヵ月ごとに計画を立て、3年分の売上計画を組んでおくと良いでしょう。
軌道に乗るまでの時間
お客様が定着し軌道に乗り始めるまでは、時間がかかります。
そのため、運転資金は余裕をもって用意しておくことが必要です。
ニーズに合った商品・サービスを提供できるかが、黒字経営のためのポイントです。
収支計画
収支計画
収支計画とは、「収入」と「支出」、「借入」と「返済」などの関係を長期にわたって予測することです。
見込み収入を計算し、そこから支出する金額を引いて、どれほどの利益がでるかの見通しを立てます。それにより、必要な売上金額を導き出すことができます。
そのためには、お店の運営に必要なランニングコスト(家賃などの固定費、食材費や人件費、広告料などの変動費)を把握し、利益を出せる内容にしましょう。
事業計画は、長期的な見通しを立て、少なくとも開業から3ヶ月後、半年後、1年後の計画は立てておくべきです。
簡易宿泊施設運営の主な費用
- 家賃
不動産賃貸料金、管理費など
※持ち物件の場合は「減価償却費」や「固定資産税」 - 人件費
社員・パートアルバイト給与手当、通勤交通費、福利厚生、求人費など - 広告宣伝費
予約システム利用料、予約サイト送客手数料、HP管理費、各種広告関連経費など - 水道光熱費
水道、ガス、電気代金 - 通信費
電話、FAX、インターネット関連費用など - 消耗品費
リネン、ぺーバー、洗剤、備品購入代など - その他の経費
修繕費、備品、リース料、保険料、ごみ処理代、組合費、支払利息、租税公課、販売促進費、個人店の場合はオーナーの給与など
損益分岐点
損益分岐点とは、宿の経営が黒字になるのか赤字になるのかの境目になるラインのことを言います。
損益分岐点を計算する事で、「使った分を回収するにはいくら売ればいいか?」がわかります。つまり、「下回ると赤字になるぎりぎりのラインの売上額」がわかるのです。
損益分岐点は以下の計算式で求められます。
損益分岐点=固定費÷(1-変動費÷売上高)
- 固定費:売上の増減にかかわらず発生する一定額の費用のこと。(家賃・人件費・水光熱費など)
- 変動費:売上の増減とともに変動する費用のこと。(材料費や仕入原価、販売手数料など)
「売上計画」や「収支計画」を練ることで、売上が足りない場合の原因の究明や、対策がしやすくなります。
シミュレーションは何度も行って、開業に備えるようにしてください。
コンサルタントからのワンポイントアドバイス
栗田 宏和様
なんでも相談できる業者を見つけることが大切です。
開店準備がスタートすると決めることや手続することなどがたくさんあります。
全て自分で調べて行うことも大事ですが、相談できる人がいることが大きなアドバンテージになります。
資金調達、近隣店舗とのかかわり方など「悩む」時間を減らして良いお店作りに注力しましょう。